ヴァレンティーナ・バルバロとエコーズ・オブ・エンパイア:第7話「ミアズマの端」

銀河中の多くの星や星団を切り裂いているミアズマだが、付近の宇宙空間の端はいつも緊張感に溢れていた。昔なら巨大な海の引き潮のように、いとも簡単に惑星全体を飲み込んでいた。

第7話「ミアズマの端」

ミアズマ の正体を知るものはいない。知っていたとしても、その正体について語ることはなかった。巨大で恐ろしい力は、いつでも一度の拡張で世界を吸収してしまう恐れがあり、銀河系の居住区と深宇宙の未知の空間を隔てる壁であり境界線でもあった。そのエネルギーを利用する方法は発見されていなかったが、多くの科学者がその日は近いと言い張っていた。しばらく前から不思議なことに、ミアズマは拡大をやめ、代わりに後退しはじめていた。銀河中の人々が謎の解明とミアズマが後退し続けることを願っていた。予測不可能な性質は、特にその新しい領域に住む勇気ある者たちにとって不安なものでしかなかった。ヴァレンティーナがこの地域で仕事をすることは殆どなかったが、ごくまれに他の場所に行く途中で通りかかることがあった。

3つの派閥は奇妙な睨み合いを続ける冷戦状態にあり、最初の一撃を仕掛けるのをそれぞれが待っている状態で、遠くの地まで遠征する余裕はなかった。、ヴァレンティーナには関係のないことで、3つの派閥すべてを都合よく避けることさえできれば問題なかった。

シギス・ステーションの名前は、昔の皇帝の名前に由来していると言われているが、どの皇帝の名前なのかヴァレンティーナは知らなかった。今まで完全にミアズマの中に埋もれていた古い帝国式のステーションは、最近になりその姿をあらわにした。ミアズマが襲った後に地には誰もおらず、昔の富を再分配しようと荒くれ者たちであふれていたが、誰の迷惑にもならなかった。

ヴァレンティーナは、全盛期はさぞかし素晴らしかっただろうと。思いを馳せながら、人の減った再発見された古い港の中を歩き、路地裏に身を潜めた。シギス・ステーションの地図は正確ではなかったが、その座標は着実に下へ、巨大なステーションの更に暗い下層へと導いていた。最後に何か価値あるものに出会えればいいと思っていた。

下に進むにつれ、荒くれ者達の姿がどんどん少なくなっていった。ヴァレンティーナは瓦礫に注意しながら歩いていると、近づくと明るくなり、通り過ぎると消えていく小さな光を発見した。あちこちに古びた看板があったが、古い帝国の文字で何が書いてあるのかはわからなかった。

マテオからこの座標を盗むのは賭けだったが、気づかれてはいないはずだ。実際にチップを奪ったわけではなく、データをコピーしただけだったし、オリジナルチップはマテオの手元にあり、彼の予定を狂わすようなことはないはずだ。

次第に老朽化し破損が酷くなっていく通路に囲まれながら、ヴァレンティーナは廊下を調べ、腕の地図を確認した。

「何かがおかしいわ。」と呟きながら振り向くと、別の通路が一斉に明るくなり、まるでステーション自体が深い秘密へと手招いているようだった。「不吉でも何でもないわ。この下に何があるのかみてよう。」

通路は古いステーションの廃墟の奥へと続いていた。ヴァレンティーナは、通ってきた道を記憶する腕のマップと、呼吸可能な空気に囲まれていることを保証するエクソスーツに感謝した。こんな状況で空気が悪い (無い) 場所に出くわしたら、仕事ばかりでなく人生すら簡単に失なってしまう。順調に空気圧を保っているように見えたが、内部のガス漏れは外部からの空気圧ではどうにもならないし、パイプはとても古かった。

照明に導かれながら古い制御室の様な場所に降りて行くと、割れたプラスティ・ガラスや、バラバラになった古い操縦盤が至る所にあり、慌てて退避したことを物語っていた。ヴァレンティーナはブラスターを取り出し、この部屋を破壊した何かが、もうここには居ないことを祈った。通路との間には腰の高さの手すりと、古いMark 1コンピューターサーバーの山があるだけで、戦いには不向きな場所だ。

鮮やかな金属の輝きが目に飛び込んできた。ヴァレンティーナはブラスターを片手にひざまずき、慎重に厚い埃を払い落とした。

鮮やかな金属は大きさの割には重く、全体に星座が刻まれている滑らかな金属製の箱だった。いや、星座ではない。博物館でしか見たことのない古いタイプの星図だ。価値があるかもしれない物を見つけた喜びに、思わず顔がほころんでしまった。

その時、近くで通信を受信したヴァレンティーナのヘルメットの通信機が耳に鳴り響いた。今は慎重さが何よりも大事だと即決し、星図の箱を持って、来た道をゆっくりと戻っていった。

第1話「ケプラーズ・レムナント」

第2話「独立保護領」

第3話「ライトスピア」

第4話「シェパード・ヴォイド」

第5話「セレスティアス・ノックス」

第6話「クルーシブル」

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