エコーズ・オブ・エンパイア物語: 第3話「ライトスピア」

お金はどんな鍵よりも扉を開けるのに最適だ。

密輸業をするにもお金は沢山かかる。適切な人選、正しいコードの購入、 必要な人間に見て見ぬふりをさせる必要がある。

その過程は綿密に練られたものだったが、ヴァレンティーナはそれを熟知しており、大金を稼ぐために多少のお金を支払うのを厭わなかった。

ライトスピアは、銀河を動かす巨大な金融機械の記念碑だった。この壮大な商業の中心地は、まるで独立保護領のように美しい印象が深く残るように建設されていた。その巨大な建物は、まるで一握りの金貨が宙も浮いているようにも見えた。金色の光が壁を照らし、建物全体は宝石で覆われているかのように見え、たくさんのステンドグラスの窓がその印象をさらに強めていた。

ヴァレンティーナが知っているライトスピアは、銀河系の商取引の代理人であるアービターズたちが、モナーキーから離脱して独自の強力な派閥を形成する前だった。よりスムーズな行程、すべての事務処理を正しく行うことによって近頃はとても落ち着いていた。分裂前はできる限りライトスピアを避けていた。数字を完璧にチェックされる環境の中で、密輸業者が活躍できる余地はあまりなかった。彼らとギャリソンがモナーキーから離脱した今、出入りは以前よりもずっと楽になった。

それに加え、誰もが簡単な小遣い稼ぎをしたがっていた。

実際の目的地は、ライトスピアの近くにある月の一つだった。HUD 地図によると、ここはかつて大きな学院の一つだったようだ。通常、お金を出した貴族の名前が付けられるのだが、そんなことは覚えてもいないし、どうでもよかった。ここのキュリティは緩い。着陸して船をロックした後、荷物の受取人を探すために中に入った。

「デイム・ソフィー・アニャにお届け物です。」目的のオフィスを見つけると、ヴァレンティーナは淡々とつげた。肩書なんて普段なら無視するところだが、面倒を起こしそうな人物の目に触れないようにすること、つまり正しい名称を使うことは、いつも仕事の大事な第一歩だった。「どこに置きますか ?」

ヴァレンティーナは、デイム (ナイトに相当する女性の叙勲) が目をまん丸にして慌てて立ち上がる姿を見て、素人の初めての特別配達に違いない、と確信した。

「あ、ありがとう。」とデイム・ソフィアは言った。若い彼女の目はぎこちなく、経験の浅さを物語っていた。「あ、あの、なんてお呼びすればいいかしら ?」

「名前なんて知らなくて良いの。私の顔は忘れて、誰もいなかったことにするのよ。」ヴァレンティーナは強気に言うと、彼女を着陸地帯の方に手招きした。「またなにか必要になったら、今回と同じ方法で配達を通せば良いわ。荷物はどこに運べばいいの ?」

「あ…こっちです。ありがとう。」

デイムは礼儀正しかったが、怯えていたのだろう。初めての大きな配達は誰でも多少不安になるものだ。ヴァレンティーナは木箱の中を覗いてみた。バインダーに詰まった解読不能の記録の山が、なぜそんなに特別なのかは分からなかったが、アービターズたちが相当欲しがっているのは確かだった。モナーキーの封鎖を突破して商業圏に配達させるのに、十分な報酬を受け取っていた。

ヴァレンティーナは、この配達が前途多難になるかもしれないことを予期し、アステリアス号を降りる前に、パワースレッドに木箱を積み込んで準備していた。

実際の配達先は、不揃いの木箱でいっぱいの倉庫だった。ヴァレンティーナは慎重に目を伏せていたが、いくつかの木箱には見覚えがあり、密輸人の印が残されていることに気がついた。友人の物や敵の物、多くの密輸人達は自分の仕事として箱に印を残していたが、ヴァレンティーナを含めた高級プロたちの多くは、少しでも追跡可能な痕跡を残すことはしなかった。

「あの…。あなたに支払えば良いのかしら ?」 木箱を開けて中身を確認した後、デイム・ソフィアが尋ねた。もちろん中身は全てそろっている。ヴァレンティーナは顧客からの荷物を盗むことがビジネスに悪影響だと理解していた。

「どうすればいいのか、よく分からないの。」

ヴァレンティーナはため息をつきながら、良いように利用してやりたいと思う気持ちを抑えた。それもビジネスにとって悪いことだからだ。

「支払わなくていいの。あなたが私の雇い主に支払った中から、報酬は貰ってるわ。」と、イラつきを抑えながら説明した。「チップなら受け取るけど、仕事の報酬は支払い済みよ。まだ仕事が残ってるから、もし他に用がなければ、私は帰るわ。」

そう言うと、踵を返してパワースレッドに飛び乗り船へと戻った。

できれば次の配達では誰とも話したくはない。

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